今回は眼圧の値にまつわるお話です。
外来で「緑内障なので眼圧を下げる点眼を使いましょう」と言われたものの、 「そもそも眼圧って何?」「どれくらいの数字なら安心なの?」 と思いつつ、何から質問すればよいか分からず疑問をそのままにしている方は多いのではないでしょうか。
眼圧の正常値とは
一般的には、眼圧の正常範囲は 10〜21 mmHg(文献によっては多少のばらつきあり)とされています。
mmHgとは
mmHg(ミリメートル水銀柱)は、圧力を表す単位です。血圧と同じで、診療の際に単位込みで数字をお伝えすることはほぼ無いので覚える必要はありません。
眼は球体であり、その形を維持するためにはある程度の圧力が必要です。この圧力を維持しているのは眼球の中を循環している房水という水ですが、この房水は眼の温度を保ったり栄養を運んだり免疫を維持する働きも担っています。
ただし、後述しますが緑内障の診療においては必ずしも眼圧が正常だから安心とは言えません。
「緑内障=眼圧が高い」とは限らない?
眼圧が高いと視神経に負担がかかりやすく、緑内障のリスクが高まります。
しかし実際には
- 眼圧が正常でも緑内障になる人(正常眼圧緑内障)
- 眼圧が高くても緑内障にならない人(高眼圧症)
が存在します。
わかりやすく言うと、緑内障の発症や進行は 「視神経の耐える力」と「眼圧」のバランスで決まります。
視神経が繊細な人では、正常範囲の眼圧でも負担になり進行することがあります。 逆に、視神経が丈夫な人では、やや高い眼圧でも緑内障にならない場合があります。
日本に多い正常眼圧緑内障
日本の大規模疫学研究では、全緑内障の約7割が正常眼圧緑内障と報告されています。
つまり、日本では眼圧が正常値でも緑内障を発症した方がむしろ多数派です。
アジアと欧米の違い
これは日本を含むアジア地域に見られる特徴で、欧米では眼圧が高くて緑内障になる「原発開放隅角緑内障」が多数派です。
正常眼圧でもなぜ眼圧を下げる必要がある?
眼圧の正常値を把握している方の中には、眼圧が正常値なのになぜ眼圧を下げる治療をするの?と思ったことがある方がいるかもしれません。
理由は多数の臨床研究から、眼圧が正常な場合でも、より眼圧を下げることで緑内障の進行が遅くなることが分かっているからです。
ではどの程度眼圧を下げればいいのかというと、これは視野の状態、進行速度、年齢、併存疾患の有無などによって異なるので、患者さんごとに異なります。
眼圧を下げる方法は点眼治療、レーザー治療、手術治療に大別され、それぞれの治療法の中でもさらに細分化されます。どのような治療方針がよいか、目標眼圧はいくつかといったことは患者さんごとに異なります。
眼圧に関する基本的な知識をわかりやすく解説しましたが、眼圧の変動や分子生物学的な機序など突き詰めていくと眼圧の話は奥深く、それでいて興味深い世界です。
このコラムで述べたことが全てではないですが、主治医の説明を理解する第一歩になれば幸いです。
医療免責事項
本サイトは、緑内障についての一般的な情報を分かりやすくお伝えすることを目的としたものです。
記載されている内容は、個々の患者さんの診断や治療方針を示すものではありません。 実際の診療においては、年齢、病型、進行速度、併存疾患などを踏まえ、主治医が総合的に判断します。
本サイトの内容をもとに治療の変更や自己判断を行わず、必ず主治医と相談のうえでご対応ください。
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